朝っぱらから、来客かと思えば玄関を開けるなり聞き馴染みのある元気のいい声たちに出迎えられ。

毎年忘れる一日を、今年も自分以外の誰かに教えられた。



「「「「誕生日おめでとう!」」」」


誕生日祝いに貰った推理小説は、元太達の小遣いで用意してくれた。
おいしい料理と、バースディケーキは蘭と歩美のお手製。
子供の頃にだって、こんな賑やかな誕生日はなかったんじゃないかと思う。


「来年もお祝いしましょーね!」
「また来るからな、コナン!」
「じゃあね、蘭お姉さん!コナン君!!」




そして、これからも








「なに考えてんだかあいつら」
「みんな好きなのよ、コナン君の事。」


夕暮れ時、それぞれの家に帰る皆を途中まで送っていった帰り道、呟いた新一に蘭は笑って言った。

元の姿に戻って既に5年の月日が流れていた。
相変わらずあいつらは自分をコナンと呼び、蘭を蘭お姉さんと慕ってくる。
拍子抜けするほどの、変わらぬ距離に、最初こそ面食らいつつもすぐに馴染んでしまった。嬉しかったんだと思う。

蘭が新一とコナンの存在のどちらかに偏ってなかったことは知っていたけれど。だからこそコナンでいた時救われたのだから。けれどそれは蘭に限らず、皆だったんだと今になって気付かされる。

打ち明け話の後、コナンに向けられた、皆の顔と言葉が新一の記憶の中で蘇る。

「忘れないよ、忘れられない。大好きだったんだよコナン君の事。」
「ええ、頼まれたって忘れませんよ絶対に!」
「お前こそ忘れんなよ、俺達はずっと少年探偵団だろ?」


江戸川コナンなんてふざけた名前で、ひょっこり現れてはどこかへ消えていった奴に、みんなが存在意義をくれた。




「・・ねぇ、新一」
「あ、うん?」
少し感慨深げになっていた新一の気持ちを蘭が引き止めた。
躊躇いがちな、迷ったような声。

「あのね、・・・・お願い聞いてくれる?」
「…いいよ。」

何も聞かずに返された返事に蘭は不思議そうな眼差しになる。そんな蘭に新一は苦笑した。
「だっておめーオレを見て言ってたじゃねーか。」
今日一日、何度となく無意識に唇が象った言葉を新一は気づいていたらしい。あ、と声を漏らした蘭に新一の表情はなんとも言えない微笑みをたたえていた。口元をわずかに緩め目を細めて。
「・・・分かるよ、それくらい」
どこか哀しげな色を帯びた笑みは、夕陽に照らされたせいだけじゃない。
その笑顔を知っている。哀しさ、だけじゃない。
記憶が鮮やかに蘇って胸を熱くした。
ずっとそばにいてくれたんだね。
変わっても、変わらずに。あの時から、ずっとそして今も。

「コナン君…」
ぎゅっと袖口を掴んだ。
そっと唇を重ねた瞳に映ったのはきっとあの日の彼。

コトリ。
新一の肩に額を埋めて、腕を絡める。
蘭の肩が少し震えているように感じて、新一が表情を変えた。
「蘭?泣いてるのか?」
「・・泣いてないよ。ただ嬉しいの」

悲しくないと言ったら嘘になる。
選べない、だって2人ともかけがえのない。

溢れ出した想い出は、今へと繋ぐ宝物。


ふいに絡めた腕をゆっくり解くと、行き場を失くした蘭の手を今度は新一が捕まえた。驚いたような蘭の髪を、空いてる方の手で軽く梳いてやる。

「・・・・大丈夫」
「・・・・・・・え?」
「絶対また会えっから…」
「・・・・・・・・うん」
「でも。あれだよな、コナンは役得かな。」
「うん」
「オレなのに」
「ふふ・・」

小さな笑い声に、新一は握った手を少しだけ力を込める。



「・・・来年はあいつと3人で来ようぜ」

目を見開き、次の瞬間、蘭のこぼれんばかりの笑顔が見えた。









fin.


20060504


色々悩んであえて短編にしてみました。
コナン君と新一、2人共に誕生日の祝福を。


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