現実の中の夢の君 |
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今日は予告した日だった。 少々面倒かと思われていた仕事もあっけなく終わって、早々に退散する事ができた。 鳴り響く何台ものパトカーのサイレンと警部のけたたましい怒鳴り声が、がキッドのいた場所から遠ざかっていく。 真夜中、月明かりを避けた誰の目にも見つかる事のない場所で人ほくそえむ白い影は、地上で騒いでいる警察の群れを尻目にハングライダーで空高く飛び消えていこうとしていた。 またお会いしましょう、中森警部v それから少し飛び続けてキッドが降り立った場所は、現場から遠く離れた人気のないビルの屋上。 すでにパトカーのサイレンすら聞えず、辺りの建物の明かりも消えてしまっていて。 僅かに月明かりだけがキッドの姿をぼんやりと映し出していた。 ・・・徐に今日の戦利品である宝石を胸ポケットから取り出し、月に翳してみる。 同時に、思わず漏れた溜め息。 「・・また、ハズレか」 そう簡単に見つかる筈がないと分かってはいても、この瞬間がキッドにとっては嫌な時だった。 手袋をはめた手の平にある小さな石の重みが、キッドの心の重みに比例していくように感じられて。 何処か気の遠くなりそうな感覚に襲われて、自嘲気味な笑みが浮かぶ。 ・・・ここで、引き返す訳にも、引き返すつもりも、ないのに。 なのに、時々立ち止まりたくなる。 無視するにはあまりにも大きな音で崩れていく、心の奥が軋む音・・・。 それでも誤魔化そうとフェンスに寄りかかって溜め息を吐いた。 次の瞬間。 「-―――いつまで人を待たせりゃ気が済むんだ?コソドロさんよぉ」 どうしようもない感覚に捕われていたキッドの耳に、聞き覚えのある声が響いた。 その声で自分が今まで抱えていたはずの緊張感から、少しだけ解き放されたような気がして。 仮面を被る余裕を取り戻し、声のした方向へゆっくりと降り返った。 自然と、いつもの皮肉めいたような笑みが作れた。 そこにいたのは、予想通りの小さな男の子。 見た目の年齢からはかけ離れた雰囲気を漂わせ、気の強い眼差しでキッドを見据えていた。 真っ直ぐに自分を見据えて、迷いのない視線にまるで心の中を見透かされているような錯覚を覚えてキッドは苦笑した。 「よぉ。お前には12時って予告したんだけど。・・・新一?」 先ほどまでの消え入りそうな不安を隠すポーカーフェイスで口元だけ小さく笑う。 「・・・・お前、つくづくむかつく奴だよな。今頃警部達全く明後日の方向血眼になって探し回ってるぜ?」 キッドの問いには答えずに、文句を言うコナン。 キッドも大して気にしてないのか、ニッと笑って見せた。 「ああもあっさり騙される警察に付き合うのも、つまらないもんだけどな」 そもそも追いついてこられたら困るのだから、相手に多少不足があっても仕方ないんだけどね。 おどけたキッドの言葉には取り合わず、コナンはずんずんとキッドの前に歩み寄り、手を差し出した。 「・・・おい、それもう用ないんだろ?とっとと返せ」 「そんなに慌てなくても」 予告時間より、前に来て待ってたりして、一体どうしたっていうのか。 「泥棒に関わってる暇はないんでね」 「そぉ?照れなくてもいいんだぜ?」 「誰が誰に照れるんだよ?寝言は寝てから言え」 不機嫌そうな声で言われつつも、キッドは気にしない。 泥棒には興味ないなんて言ってる割には、予告状を送ればちゃんと解読して、逃走経路で待ち伏せしてわざわざ宝石を警部に返しに行ってくれる辺り、さして嫌われてるようには見えないんだけどね? 密かに思ったが、言えばコナンを無駄に激怒させるだけなので止めておいた。 それでもニヤついているキッドを相手にするのが面倒くさいと言った様子で、コナンは「いいから早くよこせ」と急かす。 一向に取り合ってくれない様子に諦めて、キッドは惜しげもなく宝石を手渡した。 コナンは、受け取った宝石が傷付かない様にポケットにしまいながら、ちらりとキッドを見やる。 何か言いたげなコナンの様子に気づいたキッドが、何?と首を傾げた。 「・・・快斗」 「何?」 「恋人待ってんだろ。早く帰ってやれ」 「へ?」 コナンの言う言葉の意味が分からずに思わず怪盗らしからぬ間の抜けた声が上がる。 コナンは、そんなキッドの様子に呆れてものが言えないと言った様子で、それだけ言うとからかいを含んだ笑みを残してとっとと去っていってしまった。 |
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「恋人って、そんなんじゃねーよ・・・」
別に名前なんて限定されてなかったのに。 頭に浮かんだのは青子しかいなかった自分がなんだか哀れに思えた。 だって、それにまだ幼馴染以外の、それ以上でもなければそれ以下でもないに。 屋上で1人取り残された快斗は、暫くそのままでいた。 でも、コナンの言葉以上に、青子が気になっていた。数日前の学校帰りにした青子との会話を思い出して。
『快斗、今度の月曜日の放課後空いてる?』 学校の帰り道、いつも通りに隣を歩く青子が尋ねる。 『あ・・・その日はちょっと』 『だめなの?』 『悪い』 『どうしても?』 じっと顔を顔を見つめられて、ちょっと押しに負けそうになってしまいそうになったが。 そういう訳にはいかない理由が快斗にはあって。 今度の月曜日は、予告日。1日限定で来日し展示される事が急遽決まった、ビックジュエル。 しかも、今回は宝石の所有者が毛利探偵に依頼したという情報が入っている。 ということは、当然あの眼鏡の探偵君も登場してくるに違いない。眼鏡の探偵君、つまり新一という事だ。 これは、いつもよりも厄介で、短時間で決着がつきそうにない仕事なのは必須である。 だが、こんな理由を幼馴染の青子にい言う訳にもいかず、誤魔化そうと思ったが、 いつになく譲らない青子を意外に思って困った。 『んー・・でも他の日だったら空いてるぜ?』 『・・ううん。それじゃだめだから』 『・・・それってその日に何かあるのか?』 『でも、だめなんでしょ? じゃあ、いいよ。 ・・・・・あ、そういえば聞いてよ。またキッドが予告状出したせいで、お父さん今度もまた徹夜なんだよ?』 ・・・本当は何かあるのか聞き出したかったのに、わざとなのか言葉を遮られてしまった。 しかも、キッドの話。思わず、青子の話に合わせてしまう。 『相手が中森警部じゃなー』 『なによー、それ!』 なんとなく青子につられて他愛ない話を話し続けていたら、いつの間にか青子の家に着いてしまって、青子が家の中へ入っていくのを見送ってから、快斗は自分の家へとまた歩き出した。 でも、なんだか胸の中に何かが引っ掛ったような、モヤがかかってしまったような気分がしていた。 *** あれからずっと引っ掛っていた。 だから、恋人云々は置いておいても、今日じゃないと意味がないと言った青子がどうしているのか気になった。 コナンが早めに来てくれていたお陰で、まだ今日の日付だという事に気が付いたキッドはこのまま青子の家まで行ってみる事に決めた。 青子の家の近くまで行くと、部屋に明かりが付いているのが見えた。 時間は11時30分。まだ起きているのだろうか・・・。 青子の部屋からは死角になる場所を選んで様子を伺う。 すると、空けっぱなしの窓辺にもたれながらうたた寝している青子の姿が見えた。 この季節はそんなに冷えるわけではない。 だが、いくらなんでも夜中にあんな場所であんな格好で寝ていたら絶対風邪を引くだろう。 キッドは少し迷ったが、すぐに青子の部屋の傍まで近寄ると、 音を立てずに窓辺に舞い降り、青子の横をすり抜けて部屋の中へ入り、そっと声をかけてみる。 「・・・お嬢さん、こんな所で寝てしまっては風邪を引きますよ?」 「・・・・ん・・・」 何度か声をかけてみたものの、青子はどうやら熟睡してしまったらしくなかなか起きようとはしない。 考えあぐねたキッドがベッドに寝かせてしまおうと、青子の体を持ち上げた途端、青子が目を開けた。 目をまん丸にしてキッドを見たが、どうも意識は覚醒と眠りの狭間にあるようで、 自分が抱き上げられている事にも気付いてない様だった。 「・・・快斗?」 「・・・いえ、怪盗キッドですよ、お嬢さん」 「・・・ん・・かいとでしょ・・・」 青子は目は開けているのだが、 キッドの言葉も耳に入ってないらしく、白い衣装を纏った怪盗を何の迷いもなく幼馴染の名前で呼ぶ。 実のところ、当らずとも遠からずなのだが。 でも、この状況での青子に正体が分かるはずもなく。 キッドは困った顔で苦笑すると、とりあえず抱えていた青子降ろしてベッドの上に座らせた。 そんなキッドの気持ちなど知る由も無い青子は、目の前にいるのがすっかり快斗だと思いこんで微笑んでくる。 「快斗、誕生日おめでとぉ〜」 「え・・・」 せっかくお祝いしようと思ったんだけど、快斗用事があるって言うってから・・・・ でも、間に合って良かった。 部屋の時計を確認して、にこっと微笑んでいる青子にキッドがなんて返事をするべきか迷っていると、 青子は眠たげに小さな欠伸をしてとまたすぐに深い眠りに落ちてしまった。 「あ、おいっ・・・」 眠ってしまった事でを支える力が抜けて、よろけて後方に倒れそうになるのを快斗が自分の方へ引き寄せる。 少しだけ体を揺すってみたが、やはり起きる気配はなかった。 それでも青子を手放すのが惜しくて、寝息をたててしまっている青子の寝顔を眺めながら、ようやく彼女が今日の自分の誕生日を祝ってくれようとしていた事に気付いた。 普段なら、青子の言いたい事は容易に予測できただろうが、 今日の仕事の準備で頭がいっぱいで、そこまで頭が回らなかったなんて。 情けない、とは思うけれど。 同時にやっぱり、コナンに感謝しなければと素直に思った。 多分あの時早めに現場に来てくれなかったら、おそらく自分はここにいないと思ったから。 自分の誕生日は毎年のように忘れるくせに、お人好しだとは思うが、でもそのお陰で今は、それよりも自分の腕の中にいる大切な存在を確めていられるのだと思うと苦笑してしまう。 「ごめん青子・・ありがとう・・」 そう呟いて、快斗は眠ったままの青子の顔に自分の顔を近づけて、そっとその額に唇を落とした。 |
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―――携帯の着信音で、青子は目が醒めた。 気がつくと、ベッドの上に横になっていた。 確か今夜は月が綺麗で星も良く見えて、窓辺で外を見ていたはずなのに。 それを裏付ける様に、部屋の窓は僅かに開いたままだった。 何か不審に思いつつも、鳴り続けている着信音にハッとして、携帯に手を伸ばす。 ディスプレイに表示されている名前を確認して通話ボタンを押した。 「・・・快斗?」 『よぉ、寝てたか?』 「ちょっとうたた寝してただけ。・・・どうしたの?」 『いや、ちょっとな』 「・・もしかして」 ふと、電話越しに自分の声が聞えた様な気がした。 もしかして。 「・・快斗、近くにいる?」 『え。あ、あぁ・・・今家に帰る途中なんだよ。青子の家の前通りかかったから・・・』 「待ってて!」 それだけ言うと、繋いだままの携帯を片手に、机の上に置いてあった紙袋を抱えて家の外へ向う。 時間を見ると、あと10分で12時になるところだった。 階段を駆け下りた勢いのまま、玄関のドアを開ける。 あまり勢い良く飛び出したせいで思わず躓きそうになり、表で待っていた快斗に支えられた。 「きゃ!」 「あっぶねー・・・なにやってんだよ?」 「だって・・・・」 いつもと同じような言葉なのに、いつもよりも優しく響く快斗の声に青子は少し驚いたがあえてそれは気にせず。 いつもの口喧嘩になる前に、青子は持っていた紙袋を快斗の胸に押し付けるように渡した。 「ハッピーバースディー、快斗!」 快斗はいきなり紙袋を押しつけられて驚いた表情をしたが。 でも、すぐにいつも通りの笑顔を見せた。 「・・・あぁ・・サンキュ」 警部が帰るまで一緒に待っていようと青子に誘われて、家の中に入った快斗が青子が入れてくれたコーヒーを啜っていると、何か考え込んでいる様子の青子に気が付いた。 不思議に思って声を掛けると、納得のいかないといった顔で青子は答えた。 「どうした?」 「・・変な夢を思い出したのよ」 「どんな夢だよ?」 じっと青子を見ている快斗に、話そうかどうか一瞬ためらいつつも青子は話す事にした。 「・・・・キッドがいたの」 「キッドが?」 「うん。・・・なんかキッドが快斗にすごいそっくりで・・・・」 話しながら先を思い出したのか、僅かに赤くなって口をつぐんだ。 「・・・忘れちゃった」 「・・・忘れたって顔じゃないけど?」 バツの悪そうな顔で、それ以上話そうとしない青子が気になってつい突っ込みを入れたくなる。 というか、青子が夢だと思っている話は現実で相手は自分なのだから。 気にするな、という方が無理で。 「いいじゃない、夢だもん」 「ってことはやっぱり覚えてんだろ」 ちっとも忘れてなさそうな青子に意地悪そうに笑うと、真っ赤になって青子は否定した。 「・・もう、忘れちゃったの!」 「青子、顔真っ赤だぜ?」 意地悪っぽくニヤついた顔で言われて、青子はそれまで以上に火がついたように赤くなった。 「・・・なによー!快斗には絶対教えてあげない!」 それだけ言うと、椅子から立ち上がり自分の分のカップを持って、台所へ駆け込んで行ってしまった。 台所で勢い良く水道の蛇口を捻り、食器を洗っている最中も、青子の顔はまだ赤かった。 キッドが快斗に見えて、 そのキッドに抱えられて眠っていた夢。 しかも、その腕の中がなんだか居心地良かった・・・なんて絶対快斗には言えない。 洗い終わった食器を片付けて、 壁に掛けてある鏡で顔の赤みが引いたかをチェックしながら青子は1人声に出して呟いた。 「それにしても、夢の割にはすごくリアルな夢・・・」 一方、青子が部屋を出て行く青子の後姿を見送った快斗は、少し意地の悪い、 でも嬉しそうな笑みを浮かべながらコーヒーを啜っていた。 |
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快斗誕生日祝期間限定話。再録。
おかしな所が多々あります(汗)追々修正することでしょう(汗)
Firstupdate 2004/06/21