コナン君は年上の女の人が好きなのかな。 歩美も、もっと大人の女の人になりたい。 コナン君に振り向いてもらえるような。 あめのち晴れ。 「歩美ちゃん、どうしたんですかその髪?!」 「パーマだよ。昨日親戚のお姉さんの結婚式にお呼ばれしたから、かけてもらったの!」 「すっごくかわいいです!」 「似合ってるぜ、歩美!」 「ありがとう!光彦君、元太君」 光彦と元太に笑顔で頷くと、くるんとまるまった髪の先が耳元を擽る。 いつもと違うふんわりパーマ。 髪型に合わせて、カチューシャもよそゆきのお花付きにしてみた。 「似合ってるわよ」 「ありがとう、哀ちゃん。・・あ、コナン君は?」 「彼お休みですって」 「そっか・・」 毎朝皆が出会うはずの交差点で、コナンの姿はなく。 あまり遅刻をしたことのないコナンだから確かめるまでもなかったが、つい聞いてしまった。 ―コナン君に見せたかったな。 本当は、一番最初にコナン君に見せたくて。 昨日の夜から、楽しみにしてた。 何て言ってくれるか、ちょっぴり不安でどきどきしてたから。 今頃コナン君何してるんだろう? 風邪でも引いたのかな。 それともまたおじさんにくっついてどっか行ってるのかな・・・。 (帰りに寄り道しちゃおうかな・・・) 授業中も先生の言葉などちっとも耳に入らなくて、斜め前の空いた席をボンヤリ見ていた。 下校時刻。 昇降口を出ると、いつの間にか空中を黒い雲が覆っていた。 いつものように遊んで帰ろうとしていた元太達は不服顔。 「あ〜あ、天気予報は晴れだったのに・・・」 「仕方ないから、今日はさっさと帰ろうぜ。ずぶ濡れで帰ったら母ちゃんに怒られちまうからよ」 「じゃあ元太君、光彦君、また明日ね」 元太達に別れて間もなく、ぽつぽつと雨が降ってきた。 「ああ、やっぱり降ってきちゃった!」 (髪が濡れちゃう) 仕方なく寄り道を諦めて、歩美は家へと続く住宅街を駆け出した。 ここから家まではそれほど遠くない。 せっかくのふわふわした髪の毛を濡らしたくなくて、必死に走る。 ぽたぽたと頬を掠める雨の雫に、走るスピードを更に上げた。 その時。 「きゃあ!」 角を曲がった途端、突然吠えられて歩美は立ち止まった。 「どうして、こんな所に犬がいるの〜?!」 今朝はいなかったのに。大きな犬が一匹、こちらを睨みつけている。 周りを見渡しても、雨が降っているせいか、飼い主が見えない所を見るときっと野良犬。 うなり声を上げてにじり寄って来る犬を前に、思わず後ずさるが、塀に背中がぶつかり遮られた。 狭い路地では逃げたくても、逃げられない。 今来た道を引き返そうにも、走ったらきっと余計に追いかけられてしまう。 (ど、どうしよう・・・!!!) 向かって来ると思った瞬間、歩美と野良犬との間を何かがすり抜けた。 「きゃあ!」 「歩美ちゃん!」 ボンボン、と何かが転がっていく。 恐々目を開ければ、バウンドして転がっていくサッカーボールと、それを追いかけていく犬が見えた。 「大丈夫か?」 「あ、・・・・・・・・」 聞き慣れた声。現れた人の姿に歩美は声もなく頷いた。 野良犬から解放されてほっとしたのも束の間、ふと我に返って、持っていた鞄で顔を隠す。 (コナン君!) 雨で濡れてしまった髪を見られたくなくて、咄嗟に顔を隠した歩美を不審に思って、コナンが顔を覗き込む。 「歩美ちゃん?どうしたの?どっか怪我でも・・・」 勘違いしたコナンが鞄に手をかけると、思わず叫んでいた。 「見ないで!」 「え?」 涙交じりの声に驚いて、コナンの動きが止まる。 「うっ・・・・・・」 大声を張り上げたせいで、歩美の中で張り詰めていたものがぷつりと切れた気がした。 同時に、感情が涙になって瞳いっぱいに溢れだす。 「・・・・髪・・くしゃくしゃになっちゃったから・・・」 「・・・・・・」 「・・・せっかく・・・・コナン君に見せたかったのに・・・・だから・・」 ぼろぼろと涙が零れ落ちた。 恐怖より、ずっと悲しい。 「そんなことないよ」 差していた傘を歩美の方へ傾けながら、コナンがほほ笑んでいるのが声で分かる。 気を遣ってくれてるのが分かるから、余計に悲しくて。 「うそ・・・変に決まってるもん・・」 濡らしちゃいけないことくらい分かるもん。 ひっくひっく。 しゃくりあげて泣き出した歩美に、それ以上コナン君は何も言わない。 ただ、傘を差し出したままで。 困らせてると分かっていながら、一度溢れた涙はなかなか止められない。 大人の女の人はこんな事しないよね。 そう、きっと蘭おねーさんだったら・・・・。 「じゃあ、これ被ってろよ」 「・・・・・・・・・」 頭上に何かを乗せられて、思わず顔を上げた。 片手で探ってみると、乗せられたそれは、つい今までコナン君が被っていたキャップ。 「それなら、気にならないだろ?」 驚いて顔を上げれば、やっぱり悪戯っぽく笑ったコナンがいた。 「・・・・・・・・うん・・・・」 ありがと。 呟いた声は声にならなかったけれど、頷いたコナンにやっと歩美の顔に笑顔が灯る。 「ほら、帰ろうぜ。送ってくから」 ポケットから取り出したハンカチを歩美が受け取ると、コナンはゆっくり歩き出した。 その後を慌てて、歩美が追いかける。 傘を叩く雨音はいつの間にか本降りになった事を知らせたけれど、 コナン君の傘の中は、それだけであったかい気がした。 fin. |
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